1.通い徳利からわかること
 通い徳利は、店が客に貸し出した量り売り用の徳利で、別名「貧乏徳利」とよばれたんだ。なんで貧乏徳利とよばれたかは、諸説あってよくわからない。そして、通い徳利は、よく見ると地名・屋号・店名・番号・日付などがかかれているよ。このような文字の書かれた徳利は、明治時代から昭和時代初期まで使われたんだよ。亀山では、昭和10年代頃まで使われていたみたいなんだ。
①みてみて、こんなにたくさんの通い徳利があるよ

 収蔵品には、約60本の通い徳利があるんだ。ここに展示しているのは、そのうちの一部だよ。この通い徳利を調べていくと、お酒を造っていたお店のもの、醤油を造っていたお店のもの、小売り店のものに分けられるんだ。多いのは、小売り店のものだね。
[1-1]
塩井屋通い徳利
[1-2]
岡本酒造通い徳利
[1-3]
㋾店通い徳利
[1-4]
近江屋通い徳利
[1-5]
駒田支(丈ヵ)店通い徳利
[1-6]
前田屋通い徳利
[1-7]
柏屋通い徳利
[1-8]
山形屋通い徳利
[1-9]
川崎屋通い徳利
[1-10]
糀屋通い徳利
[1-11]
林屋通い徳利
[1-12]
山田屋通い徳利
[1-13]
佐野通い徳利
[1-14]
㋕酒店通い徳利
[1-15]
伊東店通い徳利
[1-16]
野登村産業組合
通い徳利
[1-17]
酒平通い徳利
[1-18]
玉屋通い徳利
[1-19]
支店通い徳利
博物館が収蔵する通い徳利の一覧(市域のみ)
店名 所在地 文字 高さ
(㎝)

(㎝)
1 堀醸造場 野村 「塩井屋」「五一一」 22.9 10.7
「塩井屋」「六〇八」 26.1 12.0
「塩井屋」「丑 弐千五百四十七」 26.5 12.3
2 岡本酒造場 野村 「鈴鹿正宗」「岡本」「ト 五〇九」 37.0 15.0
「岡本」「亀山町」「とら 弐十弐」 26.1 12.6
「亀山町」「岡本」「ヽ(トヵ)リ 一五二」 26.6 13.0
「岡本酒造」 25.0 14.3
「鈴鹿正宗」「岡本」「一七〇」 22.8 10.4
「亀山町」「岡本」「ト 一一四〇」 26.6 13.4
「鈴鹿正宗」「岡本」「昭和十一 一三一」 27.6 13.4
「鈴鹿正宗」「岡本」「昭和十五 五三四」 22.6 10.4
「亀山」「岡本」「ト二一一八」 34.8 14.8
「亀山」「岡本」「未 百弐十九」 26.3 13.1
「亀山町」「岡本」「ト 二五四一」 26.3 13.2
(文字無し) 25.23 14.4
3 佐野 野村 「亀山町野村」「佐野」 24.0 10.0
4 西谷酒造場 西町 」「近江屋」「廿八年 未 百廿号」 25.4 13.2
5 草川酒造場 西町 「亀山」「塩や」「百拾番」 20.0 15.0
「カメ山」「草川商店」「千百十九」 34.2 15.1
6 日野屋支店 東町 「カメ山」「鈴木酒店」「辰三百八号」 32.8 16.6
7 駒田支(丈ヵ)店 東町 「カメ山」「㋙駒田支(丈ヵ)店」「六〇五」 23.5 10.4
8 前田屋 西町 「カメ山」「」「まへだや」「亥 一七〇六」 27.2 13.1
「カメ山」「」「まへだや」「亥 一四二九」 25.4 13.1
「カメ山」「」「まへだや」「未 五百十七」 23.0 10.1
9 柏屋 西町 」「柏屋」「千百九十五」 24.0 14.0
10 山形屋 東町 「カメ山」「山形屋」「 25.4 13.9
「カメ山東町」「山形屋」「卯  百十号」 24.6 13.3
11 川崎屋 本町 「カメ山」「川崎屋」「△七〇七」 25.3 13.0
「カメ山」「川崎屋」「△一〇三三ト」 26.2 13.1
12 近江屋 本町 近江屋」「酒方」「昭四 二三四六」 26.3 13.7
「カメ山」「近江屋」「昭八 七〇一」 25.7 12.8
近江屋」「酒方」「昭和三第百二十九号」 22.5 11.3
近江屋」「たまり」「大九 三三八」 27.0 12.8
近江屋」「酒方」「昭和三第一九一号」 27.3 13.2
13 林屋 本町 「亀山」「三本松」「林屋」 31.6 16.5
14 糀屋 本町 「カメ山」「糀屋」「子 一二〇」 37.3 15.8
「カメ山」「糀屋」「丑 四一三」 27.0 13.2
「カメ山」「糀屋」「子 七三五」 25.5 13.6
15 竹尾酒店 本町 「カメ山」「竹尾酒店」「卯 六〇一」 36.6 15.4
16 山田屋 不明 」「亀山 山田屋」「酉 弐千百参」 25.7 13.3
17 ㋕酒店 天神
(森垣内)
「亀山森」「㋕酒店」 25.0 13.0
「亀山森」「㋕酒店」 26.1 13.2
18 辺辻店 不明 「辺辻店」「」「卯 七百弐十八」 26.3 13.2
19 小林酒類製造場 両尾町
(平尾)
」「日野屋」「三百十弐」」 23.0 10.0
」「日野屋」「卯 二(六ヵ)百弐十」 26.0 13.1
20 伊東店 両尾町
(平尾)
「平尾」「伊東店」「子 四百八十八」 26.0 13.4
21 上田酒店 安坂山町
(池山)
「上田酒店」「池山」「丑 七百九十八」 26.6 13.1
上田酒店ヵ 安坂山町
(池山)ヵ
「㊤」「酒」「寅 弐十五」 25.8 13.6
22 野登村産業組合 不明
(野登村)
「野登村産業組合」「大正十三年四月 弐十九」 25.6 13.2
23 尾﨑酒造場 関町新所 「㋾店」「セキ」「三百六十」 24.5 12.5
「㋾店」「セキ」「とら 弐百弐十一」 26.4 12.8
24 田中屋 関町新所 「せき」「田中屋」「八百弐十四」 27.2 13.1
25 玉屋酒店 関町中町 「セキ」「」「貮拾参号」 39.8 22.6
26 岩木屋 関町中町 「セキ」「第八十三号」 23.0 11.0
27 不明 不明
(関町)
」「セキ」「酒平」「八百八十五」 21.1 11.8
」「セキ 酒平」「丑三百七十九」 23.0 17.8
28 支店 関町坂下 「坂下」「支店」「亥 貮百五」 25.5 13.6
(令和4年9月末現在)

②まずは、ぼくたち通い徳利について自己紹介するね

 通い徳利は、店と客の間を行き来した容器だから、「通い徳利」とよばれたんだ。そして、店名や銘柄が書いてあるから、客が持ち運べば自然と店の宣伝にもなっていた。それに、客は、この徳利を持って余所よその店には買いに行きづらいから、また同じ店に買いに来てくれるしね。つまり、店側は、徳利にお店の名前や銘柄を書き入れることで、顧客の確保もしていたんだ。
 それから、通い徳利が店からの貸し出しであったことは説明したね。店側は、誰に何番の徳利を貸し出したか、ちゃんと帳面に記録していたんだよ。
 そして、この徳利が使われていた頃は、今と違って掛け売りだったから、客は徳利とともに、「通帳かよいちょう」とよばれる帳面を持参して、購入した品物や数量・後に支払う代金などを記入してもらっていたんだ。店側は、その売り上げの控えとして「大福帳だいふくちょう」とよばれる帳面に記録して、後日集金していたんだね。
[1-20]
1-20:大正拾年五月廿九日起 樽徳利帳
年代:大正10年(1921)
中林大典家所蔵資料
[1-20]
 これは、関町中町にあった中林酒造場なかばやししゅぞうじょうが、客に貸し出した樽と徳利を控えた帳面だよ。中には、番号と貸し出した客の名前が記載されているんだ。
[1-21]
1-21:大正拾壱年参月吉辰 酒類容器控帳
年代:大正11年(1922)
中林大典家所蔵資料
[1-21]
 これも、関町中町にあった中林酒造場なかばやししゅぞうじょうが客に貸し出した樽や徳利を控えた帳面だよ。
[1-22]
1-22:清酒之御通
年代:近代
館蔵西谷家資料
[1-22]
 これは、西町にあった西谷酒造店にしたにしゅぞうてん(近江屋)で作られた、使用期限を1年間とした通帳かよいちょうなんだ。帳面は、版木はんぎで刷って作られているよ。未使用だから、中は何も書かれていないけれど。
[1-23]
1-23:酒之御通(版木)
年代:近代
中林大典家所蔵資料
[1-23]
 これは、中林酒造場なかばやししゅぞうじょうで使われた、通帳かよいちょうの表紙部分を刷った版木はんぎだよ。

 コラム-1
信楽のたぬきの持ち物

 ここに、商売の縁起物として有名な信楽焼のたぬきがいるよ。よく見てごらんよ。たぬきは手に何を持っているかな。実は、たぬきは、通い徳利と通帳かよいちょうを持っているんだ。昔の人は、酒を買いに行く時、通い徳利と通帳を持って行っていたんだよ。今は、通い徳利も通帳も使わなくなったけど、信楽焼のたぬきだけは、今も昔も通い徳利と通帳を持っているんだ。

(左)右手:通い徳利/(右)左手:通帳